自動車産業は今、『100 年に 1 度の変革期』を迎えていると言われています。変革を推進する主な要因は、実は、1961 年に産業用ロボットが初めて製造ラインに組み込まれ、活用されるようになった当初から存在していました。効率と精度の向上、労働力の低減、そして言うまでもなくコスト削減—— こうした背景には、ロボット工学と自動化技術による輝かしい未来像がありました。そして今、インダストリー4.0 (第 4 次産業革命、略称: I4.0) 時代を迎え、モノのインターネット (Internet of Things、略称: IoT)、クラウド・コンピューティング、ビッグデータなどの最新テクノロジーを活用して、自動化はサプライヤからエンドユーザーに至るまで、バリューチェーンのあらゆる側面に及んでいます。その結果、自動車業界はかつてないほど緊密に連携し、状況に応じた柔軟な体制を確立しています。
困難な状況下での取り組み
自動車業界は現在、世界的に大きな変革期を迎えています。炭化水素依存から脱却し、環境配慮型で信頼性を満たすエネルギー源を模索する中、新たな課題も生まれています。さらに中国の EV メーカーが存在感を高め、欧州や米国のメーカーにも大きな影響を与えており、特に生産工程における競争力強化とコスト効率の向上が迫られています。また、米国をはじめとする各国政府による関税率の脅威も大きくなってきています。こうした現状について、ドイツ自動車工業会(Verband der Automobilindustrie; 略称: VDA)の広報担当者である Simon Shütz 氏は、英国の BBC の記事で次のように語っています。
「課題は山積みです。まさに一難去ってまた一難…というような状態です」
「自動化」はその解決策のひとつと考えられています。自動走行ロボットには、無人搬送車(Automated Guided Vehicle; 略称: AGV)のように設定されたルート上を走行するロボット、機械学習などのツールを用いて周囲の状況に応じてロボット自体が適切なルートを判断して自律的に走行する自律走行搬送ロボット(Autonomous Mobile Robot; 略称: AMR)などが挙げられます。
ニュース配信サービスの GlobeNewswire の記事によると、世界の産業用ロボット市場は 2022 年には約 485 億米ドル規模と評価され、2032 年には約 1,428 億米ドルに達すると予測されています。また、国際ロボット連盟(International Federation of Robotics; 略称: IFR)によると、世界中の製造業のなかでも工場におけるロボットの稼働台数が最も多いのは自動車産業となり、その稼働台数は過去最高の約 100 万台に達したとされています(2023 年時点)。国際ロボット連盟の会長である Marina Bill 氏は、「自動車産業は製造自動化の生みの親といってもよい存在です」と述べています。こうした動きの背景にはコスト削減、特に人件費の削減が存在します。自動化技術を導入することで、欧米の Tier1 自動車メーカーは、ここ数年中国メーカーに脅かされてきた競争優位性を取り戻しつつあります。特に電気自動車(EV)市場における最も重要な競争軸でもある「価格」と「航続距離の確保」において顕著になってきています。
米テスラ社が打ち出す新たな生産方式「Unboxed」のように、自動化技術による競争が激化しています。工場の自動化やロボティクス分野で強みを誇るテスラ社は、次世代モデルの製造コストを最大 50% 削減することを目標に掲げ、自動化設備の導入を進めています。こうした動きがもたらすメリットとしては、設備投資削減やリソースの有効活用などによる「コスト 50% 削減」、生産ラインのコンパクト化や再生可能エネルギー利用、都市部での製造実現による「工場面積 40% 削減」が挙げられています。同社が挑む「Unboxed Process(アンボックスト・プロセス)」では、車両を部品単位である「モジュール」に分けて各モジュールの組み上げを並行処理した後、メインラインで車両を完成させるため、製造工程に要する時間の短縮、製造能力の向上が見込まれています。アンボックスト・プロセスによる柔軟性が高められると、モデル変更が容易になり、同一ラインでの複数モデル生産効率が向上すると考えられています。こうしたスケールアップ / スケールアウトは、「Unboxed」方式で構築される新たな生産ラインにおいて魅力度の高い特徴となり、製造ライン内やラインエンドの移動作業を自動化対応のビークルムーバー(車両運搬機)に置き換える必要性が出てきます。これは Flexiline とも呼ばれ、これまで Henry Ford 時代から続くライン生産方式に代わり、自動化による台頭が急速に進んでいる現象を指しています。Flexiline を用いた製造計画では、自動化対応ビークルムーバーが車両を各工程間(窓ガラス・シールド取り付け、内装パーツ取り付けなど)に設置された大型のロボット設備へ移動させたり、さらには一時車両保管エリアや特殊装備を行うエリアなどの製造ライン周辺のエリアに移動させたりします。スケーラビリティと柔軟性を備えたこのような搬送ロボットは今後、製造ラインにおいてさらに重要な要素になると考えられています。こうした現状を受けて、Stringo AB 社 CTO である Magnus Grafström は次のように語っています。
「製造現場における搬送ロボットとしてのビークルムーバー活用の可能性は広がり続けています。このソリューションは確実に成長が見込まれると感じています」
追随する企業もすばやく柔軟に「アンボックスト・プロセス」を取り入れ、特にアジアの自動車メーカーでは「Dark Factory(ダークファクトリー)」概念を導入しています。ダークファクトリーでは人手を要することなく自動車組立工場を稼働でき、照明をつける必要がなく省エネの実現も見込まれています。欧州メーカーでも徐々に課題に挑み、競争力や革新性の維持に取り組んでいます。BMW 社が掲げる「iFactory」コンセプトでは、柔軟性とモジュール性を重視した製造工場の未来像を示しています。iFactory は「アンボックスト」方式を統合し、BMW 社による新型モデルや新技術を製造ラインにすばやく適応させることを可能にする試みです。今後より多くの Tier1 自動車メーカーや小規模メーカーが、自動化に向けた「アンボックスト」方式を採用し、急進的に自動車製造ラインの再構築を図ることが予想されています。
「アンボックスト・プロセス」とは
- モジュラー型構築: 分割して造ったモジュールから車両に組み上げる
- 並行処理: 複数の車両工程が並行して同時に処理される(現行は直列の生産ライン)
- 柔軟な組立順序: 異なるモデルや構成に対応可能なプロセス
- 無人搬送車 (AGV): 工場内で各モジュールを搬送(現行はベルトコンベア式)
Source: Forbes
搬送ロボット、AI、ML、DL、Swarm ~ 自動車業界自動化の次なる展開
前述のとおり、自動化への取り組みは急速に進んでいます。世界初の AGV は、1953 年に Barrett Electronics 社(米国イリノイ州ノースブルック)で開発されたのが起源とされています。当初は、レールではなく床に敷設されたワイヤーを辿って走行する車両をけん引するトラックでした。AGV は、レーザー誘導方式から AI インテグレーションまで大きな進歩を遂げていますが、基本的な考え方は変わらず、事前に設定されたルートを走行して所定のコマンドを完了するというものです。AGV は、設定されたルートを繰り返し、高い効率で実行することができます。AGV は一貫性があり、決まったルートを規則正しく走行し、高度に構造化された作業を効率よくこなすことを特性とします。これまでの自動化技術を支える中核を担ってきました。
近年では、破壊的イノベーションが AGV の領域にも出現しています。AMR(自律走行搬送ロボット)と呼ばれる技術は、1950 年代には開発されていました(最初の 2 台のロボットは「Elsa」と「Elmer」と名付けられました)。しかしその影響力が広がったのは 1990 年代、従来の製造業に加えて病院への展開が進み、食事配膳などの自動化ソリューションとして導入されてからでした。AMR は AGV とは異なり、予め設定された固定のルートやタスクに依存せず、搭載されたセンサーやコンピューター機能を用いてデータを処理し、自ら最適なルートを判断して自律走行を行います。実際、搭載された知能と意思決定機能により、AMR は、当初のタスク設計者が想定できなかった独自の判断を下すことが可能になります。例えば、A→B→C というルートよりも、B→C→A の方が効率的であると AMR が認識し、機械学習分析によってそれを実証できるのです。AGV を列車に例えるとすれば、AMR は自動車のようなものと捉えてみてください。AMR は横断的な観点で、リアルタイムな分析と意思決定を行い、目的を達成することができます。
AGV と AMR のいずれの場合でも、「列車」と「自動車」を例えとして念頭に置くことが重要です。現代社会には列車と自動車がそれぞれ異なる用途のために存在しています。AGV と AMR にも同様の状況が生じています。近年では、両アプローチをより包括的な概念である「搬送ロボット」という新たな用語に統合する動きが進んでいます。ドイツの SAFELOG 社 CEO である Mathias Behounek 氏は、「搬送ロボットを『AGV』や『AMR』といったカテゴリーに厳密に分類する時代は終わった」と語り、「新たな名称は、SAFELOG ロボットに厳密な定義は必要としないことを示す意図を込めています。課されるタスクと同様に高い柔軟性と多面性を指します」と説明しています。
自動車産業における自動化は次の段階へと急速に進展しています。人工知能(AI)、機械学習(ML)、ディープラーニング(DL)アルゴリズムが、5G や Wi-Fi ネットワークを介して IoT 接続された搬送ロボットを通じ、自動車製造現場における従来の労働力に代わり作業を遂行することが予測されています。こうした接続性によりリアルタイムのクラウド・コンピューティングが可能になります。また、スウォームネットワークのような複雑なネットワークを実現する次世代レベルの搬送ロボットの基盤も整うことになります。スウォームネットワークでは、搬送ロボットが作業領域内の位置情報をネットワーク上のすべてのロボットと共有し、AI / ML / DL による意思決定を通じて、個々としても集団としても、タスクを最適に実行できるようにします。例えば、20 台の搬送ロボットが、Flexiline 環境でスウォームネットワークを備えた自動車製造ラインで稼働しているとします。そのうちの 1 台の搬送ロボットが故障してタスクを完了できなくなった場合、ネットワークに接続されている搬送ロボットが相互にデータをクラウドソーシングし、実行中のすべてのタスクに対して最適な解決策を導き出します。人間の管理者が問題の解決策を模索する必要はないのです。
もうひとつの例として挙げられるのが安全対策です。スウォームネットワーク上の搬送ロボットは、作業環境内の情報を共有します。例えば、搬送ロボット 1 号が LiDAR (Light Detection and Ranging) などのセンサーアレイを通じて進行方向に人を検知し、その対象(人)が別の通路を移動中の搬送ロボット 4 号と交差すると報告します。この情報をスウォームネットワークで共有することで、搬送ロボット 4 号がスウォームネットワークに接続されていなかった場合に起こりうる事故を回避することができます。
総合的に見ると、多くの課題を抱える自動車業界で広がる自動化の潮流は、あらゆる技術を用いて解決策を導き出してニーズに対応していくことが考えられます。これまでの革新期と同様、求められるニーズに取り組み、モビリティ分野は新たな一歩を踏み出し、極めて重要な分野へと変貌を遂げるでしょう。