ICE (Internal-Combustion Engine; 内燃機関) 車から EV (Electric Vehicle; 電気自動車) への生産移行は、自動車試験の HSE (Health, Safety, and Environment; 衛生、安全、環境の略称) に新たな課題をもたらしています。
EV メーカー各社は、重大な火災をもたらすおそれのある自動車を速やかに避難させる方法など、さまざまな課題に取り組んでいます。
ここでは、そうした取り組みについてご紹介します。
自動車産業における電動化は、車両試験に大きな影響を及ぼしています。
バッテリを搭載した製品から出火する火災や熱暴走 (リチウムイオン電池が制御不能となり、発熱・発火状態に陥る) がもたらす危険性は、HSE において重要課題となっています。自動車メーカーでは、こうした熱暴走が引き起こすおそれのある重大要因からオペレーターを守るために、さまざまな取り組みを進めています。
車両試験では、熱暴走 (オーバーヒート) などバッテリに異常がなく、正常な状態であることを確認するため、厳格なモニタリングが求められます。EV 車両試験ではあらゆる走行・環境条件を想定し、極限状態まで追い込むよう設計されています。
即時に出火する様子がない場合は、人が車両を施設からすばやく運び出し、安全な指定区域 (人や周囲の建物から離れた場所、プールや防爆室など) に移動させます。
しかしながら、これは危険と隣り合わせの作業です。
Stringo AB 社の CTO である Magnus Grafström は、次のように述べています。
「この課題は自動車業界全体に影響を及ぼしています。自動車メーカーや試験施設では、人的介入を最小限にとどめた状態で、迅速かつ安全に、危険性のある車両を避難させる方法を模索しています」
従来の Stringo ビークルムーバー (車両運搬機) では、オペレーターが操作台に乗り、車両の前輪のみを Stringo マシンに積載して移動させます。
このアプローチは、車両移動を行う多くの場面で問題なく機能します。ですが、炎に包まれる危険のある車両の移動には、異なるアプローチが必要になります。
Magnus と彼の率いる研究開発部門は、自動車メーカーと緊密な連携を取りながら、こうした課題の解決策に取り組んでいます。
「自動車メーカーが考える主な要件は 2 つあります。1 つめは 4 輪がロックされる EV 車両であるため、自動車全体をビークルムーバーに積載 (4 輪をリフト) できること、そして 2 つめは、ビークルムーバーを遠隔操作できることです」と Magnus は言います。
過酷な条件下での車両移動
もうひとつの重要な要素は、バッテリ、センサ、油圧ホースなど、Stringo マシンの重要なコンポーネントを確実に保護することです。極限の温度や有毒なガスにさらされた状態でも、 Stringo マシンの機能性を確保できるようにしています。
「最悪の事態は、自動車を移動させる際に、その自動車が発火することです。そうした状況の中でビークルムーバーが停止してしまったら、大惨事になります」
このように Magnus は指摘します。
一方で、反復型開発プロセスは、Stringo 社にとっても、協力関係にある自動車メーカーにとっても、長期にわたる貴重な経験となると Magnus は強調します。
「こうした課題を Stringo 社単独で解決しようとしていたなら、現場から直接情報を得ることができず、ニーズや要件を推測しながらソリューションを模索することになっていたでしょう。自動車メーカーとの連携により今では、フィードバックループの仕組みが確立され、自動車メーカーが思いもしなかったような点について問いを立てたり、提案したりすることもできます。相互にフィードバックし合い、より良いソリューションを提供することができる環境が作られています」
新たな業界標準を打ち立てる
近い将来、こうした自動車メーカーとの連携の成果が、新しい業界標準になると Magnus は確信しています。
「(弊社の取り組みに) 複数のメーカーの方から大きな関心をお寄せていただいています。自動車の試験や評価を行う企業の方もこの動向を注視しています。業界の先駆的存在の企業が当社のソリューションを導入すると、他の企業も後に続くと考えており、新たな標準となると思います」
自動車業界でのニーズは常に変化しています。Stringo 社は、新たなツールを開発し、変化するニーズにいつでも対応できるようにしており、サプライヤーとしての役割も進化を遂げています。
Magnus はこう締めくくっています。
「現在、当社が開発・製造している製品は、A から B に車両を運ぶだけの機材ではありません。EV 試験の安全性を確保するためのインフラとして必要不可欠なものとなっています。ビークルムーバーは、人々が怪我をしたり、巨額を投じた設備が損害を受けたりするのを防ぐ一助となっているのです」
自動車業界におけるビークルムーバーの動向について詳しくは、 『車両運搬の未来を変える遠隔操作と自動運転技術の進化』もぜひお読みください。