「空飛ぶクルマ」― もはや遠い未来の話ではないのかもしれません。この未来のモビリティの実用化に向けて着々と開発が進められています。この記事では、デトロイト歴史協会(Detroit Historical Society、略称: DHS)のコレクション・ディレクター Jeremy Dimick 氏が、歴史家の観点から、自動車産業の技術革新や社会における自動車の意義について解説します。また、従業員に重労働を強いることなく、自走できない車両を移動させる方法についてもご紹介します。
デトロイト歴史協会は、現在そして未来のデトロイト市民が、この地を築いてきた人々、場所、出来事をよりよく理解できるようにと、1 世紀以上にわたる地域の歴史の保全・維持に努めてきました。「自動車の街」とも呼ばれるこの地の主要産業は自動車産業であり、博物館の所蔵品の中でも、クラシックカーは重要な部分を占めています。
コレクション・ディレクターを務める Jeremy Dimick 氏は、幼い頃から自動車に夢中でした。「空飛ぶクルマ」から、この博物館の「歴史的重要物」を移動させる最良の手段に至るまで、Jeremy 氏の思いについて伺いました。
デトロイト歴史協会の Jeremy Dimick 氏に問う—
—DHSの使命とは
当協会の使命はデトロイトの歴史やその背景を後世に語り継ぐことです。ですから、ここに保存されている所蔵品はすべてデトロイトに直接関連のあるものばかりです。1950 年代に、学芸員らが自動車に関する所蔵品を整理する際に、特にデトロイト流の製造方法で製造されたものに重点を置きたいと考えました。「自動車の街」デトロイトで、自動車生産においてデトロイトが果たした役割を示す所蔵品を中心に保存することは当然のことのように思えますが、実は当協会は、その歴史や背景を未来に語り継ぐ唯一の機関なのです。かつてはどこにでもあったのに、今ではなかなか目にすることがない…そういった所蔵品を展示していることが、当協会の真の強みであると思います。私たちはそういうものに親しみを持っています。
—自動車の魔力とは
「くるま」とは、昔の記憶を思い出させてくれるものです。まるで過去に戻ったかのような気持ちになります。後部座席に座ると、子供の頃に見えた景色や慣れ親しんだ道などさまざまな思い出が蘇ってきます。能動的であれ、受動的であれ、自動車は私たちの生活の重要な一部で脳裏に焼きついて離れない— 忘れ去られてしまった記憶を蘇らせるものを保存することは、とても特別なことだと思います。
—周期的な自動車の技術革新について
古いものはやがて再び新しいものへと生まれ変わります— 現代は電気自動車 (EV) 革命のさなかにあり、こうした変化は周期的に起こります。当協会は幸運にも、Anderson Detroit Electric (1914 年製) を所蔵しています。歴史家の立場からすると、「もしも最初から、電気自動車のみにこだわって開発を進めていたら、今頃私たちの社会はどのような状態になっていただろうか…」と考えられずにはいられません。
—後世に語り継がれる歴史的人物
当協会の所蔵品の中で、「Stout Scarab (スタウト・スカラブ)」はもっとも大切にしているものの 1 つです。1930 年代に William ‘Bill’ Bushnell Stout 氏により設計されました。航空機の技師でもあった Stout 氏は、フォード・トライモータ(旅客機)の開発者でもありました。「スカラブ」は今でいうミニバンのプロトタイプのようなもので、アメリカで初めて、後部にエンジンを搭載した車両のひとつでした。実際の乗客の目線で設計され、1935年には 30 台が製造されました。車両内部の座席位置が変更でき、さまざまな配置にすることができました。カードゲームをしたり、テーブルを倒してボードゲームをしたりすることが可能でした。当時の広告には、移動中に後部座席で横になって読書をする女性の写真が掲載されていたそうです。
Bill Stout 氏はとても魅力的な人物でした。Stout 氏は当時すでに、現代の私たちと同じようにモビリティについて幅広い関心を示し、空飛ぶ「モデル T (Model T)」をイメージして「スタウト・スカイカー (Stout Skycar)」を設計しました。スタウト・スカイカーは自動車と同じように操縦できる個人用小型飛行機でした。Stout 氏はレールバスも考案しました。一般道路を走行できるバスを、電気式または従来の自走式の鉄道システムに接続することで、レールの上を走行することができるというものでした。
—あなたを突き動かす原動力を教えてください
私を突き動かしているものは、これら所蔵品に対する地域や社会からの信頼でしょうか。ここにある所蔵品は、デトロイト歴史協会のものではなく、デトロイト市民のものです。次の世代がこれら所蔵品を鑑賞し、学び、関心を高めることができるよう、私たちは見守り、未来につなぐ使命感を持っています。ですから、これら所蔵品をできるかぎり適切に利用しやすいものにしています。対面であれ、オンラインであれ、これら所蔵品に自分自身を重ねて見てほしいと考えています。所蔵品の中にはきっと、ご自身の考えや感情と共鳴する何かを、深く感じることができると思うからです。
—大きな変化をもたらしたツール
当協会には 70 台の車が所蔵されています。ですが、自走できる車はほんのわずかで、しかも緊急時にしか走行できません。車を移動させるには、牽引するか、人力で押すしか手段がなく、また移動時に車を損傷させないように気遣わなければなりませんでした。車を移動させるときには、『さぁ、みんなで車を押す時間だ』とスタッフ総出で対応していました。車をトレーラーに乗せるなどして、45 分もかけて移動させていました。
ですが、Stringo ビークルムーバー(車両運搬機)を使用すると、一人で車を移動させることができます。私たちにはとても画期的なことでした。当協会に所蔵されている車は、今はもう役に立たないかもしれませんが、その歴史の重みは計り知れません。不安定な走行をする車や、調整が必要なものもあります。ブレーキがハングアップしたり、トランスミッションがロックされたりするものもあります。こうした車を動かすのは科学技術というよりもはや芸術に近い出来事かもしれません。Stringo ビークルムーバーは、そんな未知の要因を完全に排除してくれます。車を移動させるのに要する時間を正確に把握することができ、作業自体がとても簡素化されました。ここにいる誰もが Stringo ビークルムーバーを高く評価しています。
当協会では、ここに所蔵されている車の写真撮影プロジェクトを進めています。通常よりもはるかに多くの車を移動させることになるので、Stringo ビークルムーバーがなければ、今後 2 年間その他の作業が立ち行かなくなってしまうでしょう。もはや車の移動には Stringo ビークルムーバーが欠かせません。
その他の事例
博物館や車の収集家の事例について詳しくは、『German Klassikloft storing cars conveniently and safely / 車を快適かつ安全に保管~ドイツ Klassikloft 社の事例 (英語のみ)』や『Moves vehicles at the Volvo Museum with care / ビークルムーバーで車両を丁寧に移動~スウェーデンの Volvo Museum の事例 (英語のみ)』をお読みください。
電子書籍『自動車ディーラーと車両保管施設~電動ビークルムーバーがビジネスにもたらすメリット』もダウンロードいただけます。