2025 年に創業 40 周年を迎えた Stringo AB 社—— 自動車販売店のショールーム向けに開発された機材『Stringo』が、ドイツをはじめ、世界中の自動車メーカーになくてはならないツールへと成長を遂げた背景には、数々の物語がありました。この記事では、創業者 Göran Fahlén と伝説の営業マン Hubertus Obst 氏が創業当時を振り返ります。
市場価値や可能性を見極めながら、お客様のニーズに耳を傾け、モノづくりの現場で価値を証明するために努力を惜しまなかった—— 心に響く 40 年の物語です。
1985 年、Stringo AB 社が創業した当時の主要なターゲットは、自動車販売店でした。ショールーム内で展示する車両を移動させるためのツールを提供するという構想でした。Stringo ビークルムーバー (車両運搬機) を導入することで、室内での車両走行に伴う安全上のリスク、騒音レベルや空気の汚染などを低減することができるというのが主な理由でした。当時はソーシャルメディアやデジタル広告がまだ存在しない時代、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌などの伝統的なメディアが主流でした。
「パンフレットやプレスリリースを印刷して自宅に持ち帰り、夜中に梱包作業を行って、ヨーロッパ中の出版社に送ったものだよ」と Göran は当時を振り返ります。

新たな市場の可能性を見出す
1991 年、こうしたマーケティング活動がついに実を結ぶ—— ドイツのミュンヘンで暮らすスウェーデン人男性が Stringo ビークルムーバーに関する記事に目を留め、 Göran が見落としていた市場の可能性に気付いたのです。この年のクリスマス頃、Stringo 本社を訪れて実際にビークルムーバーを目にしたこの男性は、大きな感銘を受けました。そして Göran に、ドイツの自動車メーカーにこの商品を紹介することを提案したのです。
「その時点ですでに多くの時間と労力を費やしていました。でも、それに見合うだけの十分な見返りを得られなくて、ほとんど諦めかけていたんです。ですが、『ドイツの自動車メーカーに提案させてほしい』と説得され、もう一年だけ続けることに決めたんです」
この決断がまさに、Stringo の将来を左右する大きな転機となりました。
1992 年夏、Göran が家族でノルウェー旅行に出ていた際に、発注依頼が舞い込んできたのです。驚くことに、その日だけで 2 件の発注があり、いずれもドイツの主要な自動車メーカーからの依頼でした。Göran は当時を振り返り、誇らしげに語ります。
「あの夏に発注してくれた 2 社は、それ以来ずっと Stringo ビークルムーバーを利用し続けてくれています」
新たな顧客層の満足度を向上させるためには、Stringo 社自身にも変革が必要でした。
当初は主にショールーム向けに設計されていたマシンを、自動車工場の製造ラインでの過酷な使用環境にも適応できる、より頑丈なモデルへと進化させました。
工場見学から始まった成功への道
1995 年、新たな営業担当者がバトンを受け継ぎ、役割を全うしました。彼の名は、Hubertus Obst—— スウェーデンとドイツ、両国の市場に精通していました。彼こそが、Stringo 社のドイツ市場における成功の立役者でもあり、同社を一段上のレベルへと導く上で欠かせない役割を果たしました。
「Hubertus はとても熱心で、自動車工場の内部を巡る見学用列車に乗っては、Stringo マシンが活用できそうな工程をメモしていたよ」Göran は思い出を紐解きながら、長年のビジネスパートナーであり、良き友人でもある彼を称賛しました。
今では 80 代を迎えた Hubertus 氏—— 当時としてはやや型破りな調査手法を用いたことを思い返していました。
「工場見学では本当に多くのことを学びました。まるで報道記者のように、ただひたすら、必要な情報を調べまくっていました」
当初は、Stringo を必要とする適切な関係者と知り合う機会、デザインスタジオや排出ガス試験室など限られた人員しかアクセスできない施設への訪問機会を得ることが、最大の障壁となっていました。ですが、ひとたび自動車製造現場や試験施設、関係者への訪問が実現すると、ビークルムーバー Stringoは『売り込まなくても売れる』状態になったと言います。
「(ビークルムーバー Stringo は)あらゆる現場で役立つツールです。繊細なデザインを施した重量のあるクレイモデルの移動や、シャシダイナモ・テストルーム (車両台上試験室)への車両の載せ降ろし、エンジンが起動しなくなった車両をラインエンドから移動させる場合にも活用できます。こうした現場で作業する方々の前で Stringo マシンのデモを行うと、担当者の方たちからの質問は、『現場でこのツールは必要なのか』から『どのサイズの Stringo が必要なのか』へと変化する傾向にあります。購入していただいたお客様の中には、『Stringo なしでの現場作業はもう想像できない…』という方もいました」
地域に根付いたパートナーの効率的なサポート
Stringo AB 社での在職期間中の 12 年間、Hubertus 氏はドイツの自動車メーカーの大半にビークルムーバー Stringo を販売しただけでなく、販売代理店の基盤づくり、戦略的な関係構築にいたるまで多岐にわたり力を発揮しました。彼の尽力により、ドイツおよびヨーロッパの市場における Stringo 社の顧客基盤への効率的なサポートが可能となりました。
Hubertus 氏はこう締めくくっています。
「ホテルの一室で電話帳を開き、地域に根付いたサービスパートナーを探していました。
あの頃連絡を取った企業の多くは、今でも Stringo の大切なパートナーです」